「わかった?」と聞かれて、「わかりました」と答える。でも、本当はよくわかっていない。そんな経験は、誰にでもあると思います。
わからないと言うのは、勇気がいります。けれど、自分が何をわかっていないかに気づけることは、学ぶうえでいちばん大事な力の一つです。この記事では、その理由を研究とあわせてお話しします。
自分の理解を見つめる力「メタ認知」
自分が何を知っていて、何を知らないか。どのくらい理解できているか。こうした「自分の考えについての認識」を、心理学ではメタ認知と呼びます。Flavell(1979)がこの考え方を整理して以来、学習との関係が数多く研究されてきました。
勉強の計画を立てる、どこを復習するか決める、わからないところを質問する。どれも、自分の理解を正しく見積もれていることが前提になっています。
人は、自分の理解を高く見積もりがち
ところが、この見積もりはあてになりません。
Rozenblit と Keil(2002)は、ファスナーや水洗トイレなど身近なものの仕組みについて、どのくらい理解しているかを参加者に自己評価してもらいました。そのあと実際に仕組みを説明してもらうと、多くの人が思ったほど説明できず、自己評価を下げました。わかっているつもりでも、説明しようとすると穴が見える。「説明深度の錯覚」と呼ばれる現象です。
見積もりの精度を上げる方法
見積もりは、工夫しだいで正確になります。
Nelson と Dunlosky(1991)は、単語を覚えた直後に「あとで思い出せそうか」を判断するより、少し時間をおいてから判断したほうが、実際の成績をよく予測できることを示しました。直後は答えがまだ頭に残っているため、覚えたつもりになりやすいのです。
時間をおいて、何も見ずに思い出してみる。人に説明してみる。そうすると、自分が本当にわかっているかどうかが見えてきます。
「わからない」と言えない理由
わからないと気づいても、それを口に出せるとは限りません。Ryan、Pintrich、Midgley(2001)は、授業で助けを求めるべき場面でも、生徒が質問を避けることがあり、その背景には「できないと思われたくない」という気持ちや、教室の雰囲気が関わっていると整理しています。
つまり、わからないと言えるかどうかは、本人の性格だけで決まるものではありません。言っても大丈夫だと思える環境があるかどうかにも左右されます。
教える側も「わからない」と言う
だからこそ、教える側の態度が大切です。講師にも、すぐに解けない問題はあります。そのときに知ったかぶりをせず、「一緒に考えよう」「調べて次に説明するね」と言える人のそばでは、生徒も「わからないのは恥ずかしいことではない」と感じられます。
FAST-UPでやっていること
FAST-UPでは、生徒が毎日、学んだことをコーチに口頭で説明します。「わかったつもり」を、その日のうちに確かめるためです。
コーチが聞いているのは、答えが合っているかどうかだけではありません。その答えの根拠と、説明の途中に抜けがないかです。英語なら、和訳と、そう訳した文法の根拠。数学なら、解き方の手順と、その公式を選んだ理由。初めて聞く人に解説できるところまで説明できて、はじめて「わかった」とします。
コーチにも、すぐに解けない問題はあります。そのときは素直に認め、時間をもらって、必ず解決します。一人で抱え込まず、確かめ直したり、スクールマネージャーに相談したりできる体制もあります。教える側が「わからない」と言えることが、生徒が「わからない」と言える教室をつくると考えています。
まとめ
- 自分が何をわかっていないかに気づく力(メタ認知)は、学びの出発点になる
- 人は自分の理解を高く見積もりがち。説明してみる、時間をおいて思い出してみると、見積もりは正確になる
- 「わからない」と言えるかどうかは、環境にも左右される。教える側がまず言えることが大切
監修:関根 郁弥(株式会社Nogifa 代表取締役CEO)
出典
- Flavell, J. H. (1979). Metacognition and cognitive monitoring: A new area of cognitive–developmental inquiry. American Psychologist, 34(10), 906–911.
- Nelson, T. O., & Dunlosky, J. (1991). When people's judgments of learning (JOLs) are extremely accurate at predicting subsequent recall: The "delayed-JOL effect." Psychological Science, 2(4), 267–270.
- Rozenblit, L., & Keil, F. (2002). The misunderstood limits of folk science: An illusion of explanatory depth. Cognitive Science, 26(5), 521–562.
- Ryan, A. M., Pintrich, P. R., & Midgley, C. (2001). Avoiding seeking help in the classroom: Who and why? Educational Psychology Review, 13(2), 93–114.


