就職や転職で、ベンチャー企業と大手企業のどちらを選ぶか迷う人は多いと思います。とはいえ、「具体的に何が違うのか」をはっきり説明するのは、意外と難しいものです。

先に結論を言うと、ベンチャー企業と大手企業は、どちらが優れているというものではありません。それぞれに魅力と気をつけたい点があり、どちらが合うかは人によって違います。 この記事では、両者の違いを整理したうえで、それぞれの魅力、新卒で選ぶときに確かめたいことをまとめます。

ベンチャー企業と大手企業の違い

そもそもベンチャー企業・大手企業とは

ベンチャー企業に、法律などで決まった明確な定義はありません。一般に、新しい事業やサービスで成長を目指す、比較的若い会社を指して使われます。

「大手企業」も、法律で決まった定義のある言葉ではありません。一般に、事業の規模が大きく、長く事業を続けてきた会社を指して使われることが多い言葉です。なお、中小企業については、中小企業基本法で、業種ごとに資本金の額や従業員数によって範囲が決められています。また、「大手企業=上場企業」というわけではありません。

ベンチャー企業とスタートアップの違いなど、言葉の整理は「ベンチャー企業で働くメリット・デメリットとは?新卒で入る前に確認したいこと」でも紹介しています。

資金力の違い

大手企業は、長く続けてきた事業から安定した収益を得ていることが多く、新しい拠点や設備、人材の採用などに使える資金に余裕がある傾向があります。

ベンチャー企業は、事業から得た収益に加えて、投資家などから資金を集め、それを新しい事業に先に投じて成長を目指すことがあります。収益が安定するまでに時間がかかる場合もあり、資金の状況が事業の計画に影響しやすいのが特徴です。

働き方の違い

ベンチャー企業では、一人が担当する範囲が広くなりやすく、そのときの状況に応じて、さまざまな仕事に柔軟に関わることが多くあります。

大手企業では、部署ごとに役割の分担が整っていることが多く、それぞれの専門を持つ人が連携しながら、規模の大きな仕事を進めていきます。担当する範囲がはっきりしている分、一つの仕事に責任を持って深く取り組めます。部署や時期によっては、新しい事業の立ち上げに関わる機会もあります。

スペシャリストかジェネラリストか

幅広い分野の仕事をこなす人をジェネラリスト、特定の分野で深い専門性を持つ人をスペシャリストと呼びます。

「ベンチャー企業ではジェネラリスト、大手企業ではスペシャリスト」と言われることもありますが、実際にはどちらが求められるかは、会社や職種によって違います。ベンチャー企業でも専門職として採用される人はいますし、大手企業でも、部署を異動しながら幅広い経験を積む働き方があります。

どちらの働き方が自分に合うかは、人によって違います。自分がどちらを目指したいのかを考えておくと、会社を選ぶときの軸になります。

新しい挑戦への向き合い方の違い

ベンチャー企業は、新しい事業に挑戦すること自体が会社の中心にあります。まだ答えのないことに取り組むので、うまくいかない可能性も含めて、素早く試しながら進めていきます。

大手企業は、多くの利用者や取引先、社員に対する責任を持っています。今の事業を安定して続けることが大切なので、新しいことに取り組むときも、影響を慎重に検討し、手続きを踏んで進めることが多くなります。どちらにも理由があり、進め方の違いと考えるとわかりやすいでしょう。

制度や組織体制の違い

大手企業は、研修や評価、福利厚生などの制度が整っていることが多く、入社後の育成の流れも決まっている傾向があります。

ベンチャー企業は、制度を整えている途中のこともあります。その分、仕組みづくりに自分が関われることもありますが、どこまで整っているかは会社によって大きく違います。

大手企業と比較した際のベンチャー企業の不安要素とは?

大手企業と比べたときに、ベンチャー企業で不安に感じやすい点を紹介します。どれも「ベンチャー企業なら必ずそうなる」わけではないので、確かめるときの手がかりとして読んでください。

社内体制が整っている途中のことがある

創業から間もない会社では、人事の専門部署がなかったり、評価の仕組みがまだ決まっていなかったりすることがあります。困ったときに誰に相談できるのか、仕事の振り返りやフィードバックをもらう機会があるのかは、入社前に聞いておきたい点です。

事業が安定するまでに時間がかかることがある

新しい事業は、収益が安定するまでに時間がかかることがあります。資金の状況によって計画が変わる可能性もあるので、事業の状況や今後の計画を、面接などで説明してもらえるかを確かめてみましょう。

忙しい時期に仕事が集中することがある

少人数の会社では、立ち上げや繁忙期に、一人ひとりの仕事量が増えることがあります。やりがいがあることと、働く時間や負担が適切かどうかは別の話です。労働時間の管理や、時間外に働いた分の扱いは、規模にかかわらず入社前に確認しましょう。

給与や福利厚生の仕組みが会社によって大きく違う

一般に、大手企業は給与や福利厚生の制度が整っていることが多いと言われます。ベンチャー企業の給与は、会社の段階や職種、評価の仕組みによって大きく違い、規模だけでは一概に言えません。月給の内訳、賞与、昇給の仕組み、退職金制度の有無などを確認しておくと安心です。

不安に感じる理由と、安心して働ける会社の見極め方は、「ベンチャー企業は危ないの?きついと言われる理由と、安心して働ける会社の見極め方」で詳しくまとめています。

大手企業の魅力

まずは、大手企業で働く魅力を見ていきます。

研修や育成の仕組みが整っていることが多い

新しく入った人を育てる流れが決まっていて、同期と一緒に研修を受けながら、基礎から仕事を覚えられる会社が多くあります。社会人としての土台をじっくりつくりたい人には、心強い環境です。

事業の基盤が安定している

長く続けてきた事業があり、経営の基盤が安定していることが多いので、腰を据えて働きやすい環境です。将来の生活の見通しを立てやすいのも魅力です。

規模の大きな仕事に関われる

多くの人に使われるサービスや、社会を支える事業に携われることがあります。自分の仕事が、広い範囲に影響を与えていることを実感できるのは、大手企業ならではのやりがいです。

経験豊富な人から学べる

それぞれの分野に経験を積んだ人が多く、専門的な知識や仕事の進め方を学べる機会があります。部署の異動などを通して、いくつかの仕事を経験できる会社もあります。

制度や福利厚生を利用しやすい

休暇や各種手当、働き方に関する制度が整っている会社が多く、ライフステージが変わっても働き続けやすい環境をつくっている会社もあります。

大手企業と比較した際のベンチャー企業の魅力

次に、ベンチャー企業で働く魅力です。

早いうちから幅広い仕事に関われる

一人が担当する範囲が広くなりやすいので、若いうちから、企画から実行までさまざまな段階の仕事に関われることがあります。できることに応じて、任される範囲が広がっていく会社もあります。

自分の意見が届きやすい

組織が小さい分、提案してから決まるまでの距離が短く、自分の意見を経営者に直接伝える機会もあります。考えたことを説明し、実際に試してみる経験を通して、人に伝える力も鍛えられます。

経営者や経験豊富な人と近い距離で働ける

経営者や、さまざまな経歴を持つ人と同じ場で働くことが多く、立場や役職にかかわらず話しやすい環境の会社もあります。会社がどう判断し、どう動いているのかを近くで見られるのは、大きな学びになります。

会社の成長を当事者として経験できる

事業が伸びていく過程や、仕組みができあがっていく過程に、当事者として関われます。自分の仕事が会社の成長につながっていることを実感しやすく、やりがいにもなります。

新しいことを試しやすい

役割や手順が固まりきっていない分、新しいやり方やアイデアを試しやすい面があります。自分から工夫して仕事を進めたい人には、面白い環境です。

報酬の仕組みが柔軟な会社もある

役割や成果を重視して給与を決める会社や、ストックオプション(あらかじめ決められた価格で自社の株式を買える権利)を設けている会社もあります。ただし、株式の価値が上がるとは限らないので、「将来の資産になるかもしれないもの」として、給与とは分けて考えるのが安心です。

メガベンチャー・中小企業・スタートアップとの関係

ベンチャー企業や大手企業と一緒に使われることの多い言葉も、簡単に整理しておきます。

メガベンチャーは大手企業とベンチャーの中間

大きく成長して、大手企業と同じくらいの規模になったベンチャー企業を「メガベンチャー」と呼ぶことがあります。事業の基盤がありながら、新しい事業やサービスにも積極的に取り組んでいる会社を指して使われることが多い言葉です。

中小企業

中小企業は、中小企業基本法で、業種ごとに資本金の額や従業員数によって範囲が決められています。ベンチャー企業は規模ではなく性質で呼ばれる言葉なので、中小企業に当てはまるベンチャー企業もあれば、当てはまらないベンチャー企業もあります。

スタートアップ

スタートアップも、法律で決まった定義のある言葉ではありません。一般には、新しいビジネスモデルで、短い期間に大きく成長することを目指す会社を指すことが多い言葉です。ベンチャー企業とほぼ同じ意味で使われることもあります。

ベンチャー企業で求められる力とは?

ベンチャー企業でよく求められる力を紹介します。どれも入社前から完璧に持っている必要はなく、働きながら身につけていくものです。また、大手企業でも役に立つ力です。

新しい技術や仕組みへの関心

テクノロジーを使った事業に取り組んでいるベンチャー企業も多くあります。専門的に学んでいなくても、自分が関わる事業で使われている技術や仕組みに関心を持ち、少しずつ理解しようとする姿勢が役立ちます。

伝える力

どんなに良いサービスでも、その良さが伝わらなければ使ってもらえません。会社やサービスのことを、相手に合わせてわかりやすく伝える力は、営業に限らず多くの仕事で求められます。学生のうちでも、アルバイトやインターン、発表の機会などで身につけていけます。

気持ちを切り替える力

新しいことに挑戦していると、思いどおりにいかない場面もあります。うまくいかなかったときに、落ち込んだままにせず、周りに相談しながら次に何をするかを考えられる力は、長く働くうえで支えになります。

挑戦してみる力

どれだけ調べて計画しても、やってみなければわからないことがあります。うまくいかない可能性も含めて小さく試し、その結果から学んで次に生かす姿勢が、ベンチャー企業ではよく求められます。

時間の使い方を考える力

やるべきことが多いときほど、優先順位をつけて、限られた時間の中で進める力が大切になります。予定を立てて振り返ることを続けるだけでも、少しずつ身についていきます。

新卒でベンチャー企業に向いている人の特徴とは?

新卒でベンチャー企業の環境を楽しみやすいのは、次のような人です。

失敗から学べる

新しいことに挑戦すると、うまくいかないこともあります。失敗したときに、何が原因だったのかを振り返り、次に生かせる人は、経験を自分の力にしていけます。

変化を楽しめる

事業が成長していく途中の会社では、担当する仕事やチームの形、仕事の進め方が変わっていくことがよくあります。慣れないうちは戸惑うこともありますが、そうした変化を面白いと感じられる人は働きやすいでしょう。

幅広い経験を積みたい

どんな仕事に就きたいかがまだはっきりしていない場合、ベンチャー企業でさまざまな仕事に関わることで、自分に合う仕事や得意なことが見えてくることがあります。

一方で、次のような人は、大手企業の環境が合いやすいかもしれません。

  • 研修を受けながら、基礎からじっくり仕事を覚えたい
  • 安定した基盤のある会社で、腰を据えて働きたい
  • 規模の大きな事業に携わりたい

どちらが正解ということはありません。向き不向きは、能力の良し悪しではなく、合う環境の違いです。

新卒でベンチャー企業を選ぶ際の注意点

最後に、新卒でベンチャー企業を選ぶときに確かめたいことを紹介します。

企業文化がマッチしているか

少人数の会社では、一緒に働く人との距離が近く、会社の雰囲気が働きやすさに大きく影響します。特に創業から間もない会社では、創業メンバーの考え方が企業文化に表れています。会社説明会や面談で社員と話したり、インターンで実際に働いてみたりして、一緒に働いていけそうかを確かめてみてください。

経営者の考えを聞けるか

創業から年数の浅い会社では、経営者の考え方や判断が事業に大きく影響します。経営者が何を大切にしていて、会社をどうしていきたいのか、これまでどう歩んできたのかを、説明会や面接、発信している情報から知っておきましょう。

事業や資金の状況を説明してもらえるか

どんな事業で収益を得ていて、今後どうしていこうとしているのか。資金をどのように集めているのか。面接などで質問したときに、率直に説明してもらえるかどうかは、会社を知る手がかりになります。

育成と相談の仕組みがあるか

新卒で入る場合、仕事のやり方を初めて身につける場所になります。入社後、最初にどんな仕事から始めるのか、誰に教わり、困ったときに誰に相談できるのか、仕事を振り返る機会があるのかを聞いてみてください。

その会社で何を身につけたいか

「ベンチャー企業に入れば成長できる」とは限りません。その会社でどんな経験を積み、何を身につけたいのかを考えておくと、会社を選ぶ軸になり、入社後の毎日の仕事にも目的を持って取り組めます。

もしものときの備えを考えておく

事業の状況は、ベンチャー企業に限らず、どんな会社でも変わる可能性があります。生活に必要なお金の見通しを立てておくことや、日々の仕事を振り返り、身につけた経験を自分の言葉で説明できるようにしておくことは、どんな会社で働くときにも役立つ備えです。

まとめ

  • ベンチャー企業と大手企業は、資金力、働き方、新しい挑戦への向き合い方、制度の整い方などが違う
  • 大手企業には、育成の仕組みや事業の安定、規模の大きな仕事といった魅力がある
  • ベンチャー企業には、幅広い仕事に早くから関われる、意見が届きやすい、会社の成長を当事者として経験できるといった魅力がある
  • どちらが優れているかではなく、自分がどんな環境で力を出しやすいかで考える
  • 新卒で選ぶときは、企業文化、経営者の考え、事業の状況、育成と相談の仕組みを確かめる

ある人にはベンチャー企業の文化がよく合い、別の人には大手企業の環境が合うかもしれません。両方の選択肢を知ったうえで、自分に合う会社を選んでみてください。