
夜の11時。数学の問題で手が止まる。
少し前までなら、そこで勉強も止まっていました。教科書を何度読み返してもわからない。誰かに聞けるのは、早くても翌日です。
いまは違います。AIに聞けば、数秒で答えが返ってきます。解き方も、なぜそうなるのかも、何度でも、夜中でも、嫌な顔ひとつせずに説明してくれます。
では、AIがあれば、人の先生はもういらないのでしょうか。
海外では、この問いに答えようとする研究が次々に発表されています。その結果を並べてみると、問うべきは「AIか、人か」ではなく、AIと人で、何を受け持つかなのだと見えてきます。
疑問を解くのは、AIが得意になった
ハーバード大学の研究チームが、2023年秋に物理の入門授業で行った実験があります(Kestin ほか, 2025)。194人の学生が、ある週はAIチューターで、別の週は教室での授業で学び、終わったあとのテストの伸びを比べています。比較対象となった授業は、講義を聞くだけのものではなく、学生どうしで議論しながら進める、評価の高い教え方でした。
それでも、AIチューターで学んだときの伸びは、教室で学んだときの2倍を超えていました。かかった時間の中央値は49分で、60分の授業より短くなっています。
このAIチューターは、ただ質問に答えるだけの道具ではありませんでした。問題を段階的に解き進められるように組み立て、正確に説明できるよう、あらかじめ解き方の手順を組み込んであります。きちんと設計されたAIは、疑問を解く相手として、すでに教室の授業に負けない力を持ちはじめています。
ただし、この実験が測ったのは、学んだ直後のテストです。何週間もたってから覚えているかどうかは、まだわかっていません。
でも、答えをもらえば身につくとは限らない
2025年には、これとは逆の結果も発表されています。
トルコの高校で、約1,000人の生徒を対象にした実験です(Bastani ほか, 2025)。数学の演習の時間に、一方のグループは普通のChatGPTのようなAIを、もう一方はヒントを出すように設計したAIを使いました。
演習の成績は、どちらもAIを使わなかったグループを大きく上回りました。普通のAIのグループで48%、ヒントを出すAIのグループでは127%です。
ところが、AIを使わずに受けた試験では、結果が逆になりました。普通のAIを使ったグループは、AIを一度も使わなかった生徒より17%低い点数だったのです。ヒントを出すAIのグループは、AIを使わなかった生徒とほぼ同じでした。
答えをもらえば、問題は解けます。けれど、解けたことと、身についたことは違います。2025年には、主なAIの会社が相次いで、答えをすぐには見せずに、質問で考えを導く「学習用のモード」を出しました(Anthropic 4月、OpenAI 7月、Google 8月)。AIの側も、答えを渡すだけでは学びが身につくとは限らないことに、向き合いはじめています。
AIは、使われなければ届かない
では、答えを渡さないように設計したAIなら、それで十分なのでしょうか。
アメリカのテネシー州で、中学校18校が2年間かけて、答えを教えないAIチューター「Khanmigo」を数学の補習に取り入れた実験があります(Oreopoulos・Low, 2026。査読前の論文)。成績は1年で0.06〜0.08標準偏差上がりました。ただ、著者たちが別の研究の推計と比べたところ、この伸びは、AIのない練習用のサイトで得られる伸びと同じくらいでした。
利用の記録には、印象的な数字があります。ほとんどの生徒(96%)は、一度はAIに話しかけていました。それでも、問題を間違えたときにAIへ話しかけたのは、生徒一人あたりの中央値で見ると、そうした場面の17%にとどまっていました。わからないときに聞ける相手がすぐそこにいても、多くの場面で、生徒は聞かずに先へ進んでいたのです。著者たちは、大事なのはAIを用意することではなく、生徒が実際に使うことだと述べています。
2026年10月には、アメリカの大学で2,379人の学生が参加した実験の結果も出ました(Liu ほか, 2026。査読前の論文)。授業にAIチューターを組み込むと、授業のサイトでの学習への参加が大きく減っていました。同じ科目どうしで比べた1,353人の分析では、最終成績も0.37標準偏差下がっています。著者たちは、学生がもともとしていた勉強が、AIに置き換わってしまった可能性を指摘しています。
これはAIに限った話ではありません。誰でも無料で受けられるオンライン講座(MOOC)を調べた研究では、登録した人の52%が一度も講座を開かず、2017〜18年度に最後まで修了した人は3.13%でした(Reich・Ruipérez-Valiente, 2019)。
どれだけよい道具も、手元にあるだけでは学びは始まりません。使われ、続けられて、はじめて届きます。
人の個別指導は、なお強い
一方で、人による個別指導の力は、長く確かめられてきました。
よく知られているのは、1984年のBloomの論文です。個別指導を受けた生徒の成績は、普通の授業を受けた生徒より、標準偏差で2つ分(2シグマ)高くなりました。ただし、これは少数の研究にもとづく値で、多くの実験をまとめた研究では、もっと控えめな数字になります。
人による個別指導を調べた89本の実験をまとめた研究では、平均の効果は0.288標準偏差でした(Nickow ほか, 2024)。教員や訓練を受けた支援員が教えた場合に効果が大きく、ボランティアや保護者の場合は小さくなっていました。放課後よりも、授業時間内に行うほうが効果が大きいこともわかっています。
人とAIを組み合わせた実験もあります。アメリカで、オンラインで個別指導をしている講師約900人を2つのグループに分け、片方にだけ、指導中にAIが助言する仕組みを使ってもらいました(Wang ほか, 2024。査読前の論文)。AIの助言を受けた講師が担当する生徒は、単元を習得する割合が4ポイント高くなり、指導の評価が低かった講師の生徒では9ポイント高くなっています。助言を受けた講師は、答えを言うかわりに、生徒に考えさせる問いかけを多く使うようになっていました。AIは人を置き換えたのではなく、人の指導をよくしたのです。
人がとなりにいると、AIは使われるのか
では、人がとなりにいれば、生徒はAIを使うようになるのでしょうか。この問いを、そのまま確かめた実験があります(Robinson ほか, 2026。査読前の論文)。
アメリカの小学生が、AIで読解を学ぶサービスを使いました。一人で使うグループと、人の支援者がとなりにつくグループに分けて比べています。支援者は勉強を教えるのではなく、声をかけたり、うまく動かないときに手を貸したり、一緒に振り返ったりして、生徒が取り組めるように支える役割でした。
一人で使うグループでは、そのための時間が用意されていたのに、半数近くの生徒が一度も使いませんでした。使った生徒も、週に2〜5分ほどです。人の支援がつくと、使う時間は週に1〜4分増え、読んだ教材の数は71〜80%増えました。ただし、一度も使わなかった生徒が使いはじめるところまでは、確認されていません。
そして、使う量は少ないままで、読解の成績は上がりませんでした。著者たちは、AIを使える環境を用意するだけでは足りず、どう取り入れるか、人がどう支えるかが大切だとまとめています。
ここまでの研究からわかるのは、次のことです。
- きちんと設計されたAIは、疑問を解く相手として大きな力を持ちはじめている
- けれど、答えをもらえば身につくとは限らない
- AIは、用意するだけでは使われない。人が支えると、使う時間や量は増えた
- ただ、それだけで成績まで上がるとは限らない
人とAIをどう組み合わせれば学びが深まるのか。その答えは、まだこれからの研究を待つ段階です。
FAST-UPの分担:疑問はAIに、伴走は人に
研究の結論が出そろうのを待っているあいだにも、生徒は毎日学んでいます。そこで私たちは、ここまでの研究をふまえて、次の分担を選びました。
わからないところがあれば、生徒はまず自分でAIに質問して調べます。夜中でも、何度でも聞けて、待つ必要はありません。
そのあとで、コーチが「どこまで考えた?」と聞きます。生徒は、わかったことを自分の言葉で説明します。答えが合っているかだけでなく、その根拠まで説明できるかどうかを、コーチが一緒に確かめます。AIとのやりとりで「わかったつもり」になって終わらせないためです。コーチの役目は、AIを使うよう背中を押すことだけではありません。本当にわかったかどうかを確かめるところまで、コーチが受け持っています。
コーチは毎日3時間、教室にいます。一人のコーチが5〜6人の生徒を順に回り、手が止まっている生徒がいれば声をかけます。一人ひとりに合わせた週ごとのカリキュラムはAIを使ってつくり、週に1回の面談で、進め方を生徒と一緒に見直します。
AIは疑問に答えてくれます。けれど、今日もう1問解こうと思えるのは、明日も来ようと思えるのは、となりで見ている人がいるからだと、私たちは考えています。
まとめ
- きちんと設計されたAIは、疑問を解く相手として大きな力を持ちはじめている
- けれど、答えをもらえば身につくとは限らない。答えをすぐに渡すAIを使ったグループが、AIなしの試験で点を落とした実験もある
- AIは、用意するだけでは使われない。人が支えると、使う時間や量は増えた
- 人による個別指導には確かな効果があり、AIは人の指導をよくすることもできる。ただ、人とAIの最もよい組み合わせは、まだわかっていない
AIが答えを出せる時代に、人の役目は「答えを教えること」から、「最後までやり切るのを、となりで支えること」へと移っていくと、私たちは考えています。
監修:関根 郁弥(株式会社Nogifa 代表取締役CEO)
出典
- Bastani, H., Bastani, O., Sungu, A., Ge, H., Kabakcı, Ö., & Mariman, R. (2025). Generative AI without guardrails can harm learning: Evidence from high school mathematics. Proceedings of the National Academy of Sciences, 122(26), e2422633122.
- Bloom, B. S. (1984). The 2 sigma problem: The search for methods of group instruction as effective as one-to-one tutoring. Educational Researcher, 13(6), 4–16.
- Kestin, G., Miller, K., Klales, A., Milbourne, T., & Ponti, G. (2025). AI tutoring outperforms in-class active learning: An RCT introducing a novel research-based design in an authentic educational setting. Scientific Reports, 15, 17458.
- Liu, J., Sweet, T., Chen, M. H., Engelberg, J., Masters, M., Clark, M., Persaud, A., Lancaster, A., Hollingsworth, J., & Rice, J. K. (2026). The effects of course-integrated AI tutoring on student performance and engagement: A randomized university trial (EdWorkingPaper No. 26-1598). Annenberg Institute at Brown University.
- Nickow, A., Oreopoulos, P., & Quan, V. (2024). The promise of tutoring for PreK–12 learning: A systematic review and meta-analysis of the experimental evidence. American Educational Research Journal, 61(1), 74–107.
- Oreopoulos, P., & Low, N. (2026). One click away: AI tutoring with Khanmigo in a two-year school experiment (NBER Working Paper No. 35620). National Bureau of Economic Research.
- Robinson, C. D., Gormley, D., Ribeiro, A. T., & Loeb, S. (2026). Access is not enough: Human support improves engagement with AI tutoring (EdWorkingPaper No. 26-1451). Annenberg Institute at Brown University. https://doi.org/10.26300/pz7p-p388
- Reich, J., & Ruipérez-Valiente, J. A. (2019). The MOOC pivot. Science, 363(6423), 130–131.
- Wang, R. E., Ribeiro, A. T., Robinson, C. D., Loeb, S., & Demszky, D. (2024). Tutor CoPilot: A human-AI approach for scaling real-time expertise (arXiv:2410.03017).
- Anthropic (2025年4月2日). Introducing Claude for Education. / OpenAI (2025年7月29日). Introducing study mode. / Google (2025年8月6日). Guided Learning in Gemini: From answers to understanding.
Nogifa編集部



